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肺炎になった

 何とも情けないことに、風邪をこじらせて軽い肺炎になった。年の瀬からずっと体調が良くなかった上に、特に回復に向けた努力をせずに好き勝手過ごしていたら、案の定である。己の甘さ、怠惰さも原因の一端(あるいは大部分)なのだが、それよりも問題なのが、現在置かれている状況だ。

 治験という言葉を聞いたことがないという人は少ないはずである。いま読んでくれているあなたの脳裏によぎった「楽な高額バイト」というイメージは間違っていないので安心してほしい。そう、新薬のモニターのバイトのことだ。厳密に言うと「バイト」ではなく「協力」なので、対価も「協力費」「負担軽減費」という立派な名前がついている。こういう日本語の奥ゆかしさは、しばしば僕らを苦笑させる。

 僕がいまやっている治験は「お酒を減らしたい人のための薬」のモニターだ。何でも、従来の断酒薬とは違い、精神に直接作用して「減酒したい気持ち」にさせる薬らしい。別に減酒したくないのだが、通院ごとに一万円もらえるので気軽にやっている。特に制約もなく、楽なバイト、もとい「協力」である。一点を除いて。

 新薬の効果を正しく認識するために、いくつかの禁止事項がある。例えば、意図的な断酒。皮肉なことだが、強固な意思で断酒すると「薬のおかげなのか」が分からなくなるため、やってはいけないらしい。むろん、これについては問題ではない。普段からほとんど毎日飲むし、お酒は百薬の長と考えているので、断酒の二文字が頭をよぎったことは一度もない。やはり楽な小金稼ぎだ……そう思っていた。風邪をひくまでは。

 禁止事項の二つ目。最初に聞いたときは何も感じなかった。当然守れると思っていたし、真面目に捉えていなかった。

「風邪薬、咳止めなどの、一部市販薬の服用。治験薬の効果が正しく計測できないため」

 

 肺炎になった。為すすべなく、悪化の一途を辿っている。お酒を飲み続けないといけないし、薬は飲めない。これでは、いくら初詣で無病息災を祈ったところで、神様は呆れて助けてくれないだろう。