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童話(@tatanai_douwa)の詳細です

心肺

 次の文章を読んで、以下の問いに答えなさい。

 

 

 

 窮屈だ。周りを見渡すと、同じような見た目をした奴らがひしめきあっている。

「ねえ、ここのカフェさ、本当に人気なのかな。コーヒーそんなに美味しくないけど」

 沙希は憮然としている。退屈そうにストローをいじり、子供のように氷を鳴らした。

「健二くん、体調悪いの」

「別に?」

「嘘だあ、じゃあ何かあったんでしょ。なになに、恋の病?」

「そんなわけないだろ」

「彼女でもできたの?」

「できないって。できると思うか?」

「うーん、わからない。でも健二くんみたいな人、モテるんじゃない?」

「お世辞はいいよ」

 ああ、早くここから出たい。

 

 健二と沙希は大学の同期で、同じサークルに所属している。よく二人で遊ぶが、お互いがお互いを友人関係と認定している点を心地よいと思っている、典型的な一歩寸前系男女だった。しかし、沙希は決して「いいムード」にさせない。すべてのアタックを冗談として受け取る。ようにしている。のか。まったく分からない。健二は、沙希と会うのが面倒になっていた。それはすぐに態度に出てしまい、沙希を苛立たせる。「ただの友人関係」なのに何でこんなにややこしくなっているのか。健二はもやもやしていた。

 

「喫煙なの?」

 沙希が不服そうに言う。

「うん、こんな純喫茶っぽいところで禁煙なわけないだろ。あ、ほら、灰皿もあるし」

「煙いから横に吐いてよね」

「いつもそうしてるだろ」

 健二は眉の幅を狭くしながら煙を吐いた。さっきより少し、窮屈さが軽減された。

「健二くんってコーヒー好きなの?」

「好きだよ」

「いつもブラックだよね」

「最初は格好つけてただけなんだけどね。いつの間にかブラックしか飲めなくなった」

「そういうの素直に言えるのいいよね」

「なに?」

「カッコつけてることを、自覚してるのが好き」

「からかうなよ」

「素直が一番だよ。素直がさ」

 

 健二は人の目を過剰に気にするタイプだ。男女問わず、どんな人間の前でも格好つける。だからこそ、格好のつけ方もよく心得ている。どこまでも泥臭く、わざとらしく格好つける。そうすれば、相手は笑ってくれる。好感を抱いてくれる。謙遜はあまりしない。いやらしいからだ。自慢は大げさにする。いやらしくないからだ。そうやって生きてきたから、自分の思い通りにならないとイラつく。勝手だが、勝手な自分を気に入っていた。

 

 人は不思議な生き物だ。さっきまで退屈そうだった奴が、今では顔を赤らめている。

「もうさ、健二くんと付き合っちゃおうかな」

「え?」

 突然引きずり出される。何だよ、もう。

「男の人でちゃんと話せるの、健二くんしかいないし」

「いや、え、何で急に?」

「急じゃないよ、何とも思ってない人と何回も遊んだりしないって」

 火をつけられる。熱い。

「何も気づいてなかったの」

「うん、ごめん」

「ちょっと寂しいよ、それは」

「わからないんだよ」

 揺さぶられる。痛い。

「わからないんだよ、そういうの。友達でいたいのかと思ってた」

「待ってたんだよ、壁を壊してくれるの。男なのに情けない」

 また揺さぶられる。寿命が縮んでいくのが分かる。

「知るかよ!」

「何よ」

「自分勝手だろ、そんなの。俺だってさ」

「何で急に怒ってるの? 全然意味わかんない」

「こっちのセリフだよ。あぁ、何だよもう」

 脳天を叩きつけられる。激痛が走る。死にそうだ。

 

 沙希が荷物をまとめた。伝票を取ろうとする沙希に、健二はお決まりの文句を言う。沙希は手を引っ込める。

 健二はきっと後悔しているのだろう。俺にはよく分からない。

 

 

 

問い 下線部「俺にはよく分からない」とあるが、どういうことか。文章全体を考慮した上で答えなさい。