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エアバッグの論理パズル

 今でこそすべての車両に取り付けられているエアバッグだが、以前はトリガーのコストがかかりすぎたため、高級車にしか設置されていなかった。そんな中、エアバッグとは無関係のとある会社が、自社のとある製品を応用すれば安価でエアバッグを製作できることに気づいた。

 ひらめきは、多くの場合、アナロジーという思考から生まれるものである。アナロジーとは、直訳すると類推だ。Aという構造を持ったXが、A´という構造を持ったYに類似していることから、Aの要素をYに応用する。これがアナロジーである。科学の分野では頻繁に活用される考え方だ。

 アナロジーは、多くの点で比喩(メタファー)に似ている。「人生は旅である」というメタファーを考えてみよう。人生は、そのままでは理解できない抽象的な概念だ。一方、旅は誰にでも理解できる具体的な事象である。人生には旅と類似している点がいくつも見られる。我々は「まだ旅路の途中」であるし、「目的地」がある。「再スタート」することもできるし「休息」することも可能だ。また「到達点で見る景色は美しい」し、「道に迷うと絶望的に」なる。メタファーによって、「旅」を通して「人生」を理解する。この点はアナロジーと同じである。

 メタファーとアナロジーの大きな違いは、アナロジーが「面的な対応」であることに対して、メタファーが「点的な対応」であることだ。「彼女は太陽のようだ」というメタファーは、彼女と太陽を点で結んでいる。アナロジーは、構造に着目する。構造は面であり、多くの点が融合している。それゆえに、アナロジーには類推可能性が担保される。多くの点で似ているからこそ、科学の世界でも応用できるのだ。アナロジーは「構造的なメタファー」であり、より実践的なメタファーであると言えよう。

 さて、エアバッグの持つ構造はいったいどのようなものだろうか。専門的な話は抜きにして、論理パズルのように考えてほしい。エアバッグが備えていなければいけない条件を見てみよう。まず「あるきっかけで急速に作動すること」が挙げられる。言うまでもなく、事故の衝撃で膨張するエアバッグには必須の構造だ。そして「何もないときには作動しない」ことが求められる。普通に走行しているときにエアバッグが作動したら、それこそ事故である。(余談だが、エアバッグそのものの衝撃で心臓破裂、そのまま死亡したケースもある。無論、これは事故の際にシートベルトをしていなかったことが原因だ。)

 「あるきっかけで急速に作動」し、「何もないときには作動しない」という構造から、アナロジー思考を働かせる。こういった作業こそが、ひらめきを生むのだ。ひらめきとは、決して技術によらない天才的な活動ではなく、人間の脳が生み出す必然なのだ(とまでは言い過ぎだろうか)。

 安価なエアバッグを開発したブリード社には、優秀なアナロジーの使い手がいた。彼らの専門は、手榴弾だった。