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童話(@tatanai_douwa)の詳細です

注釈文の多い料理店

 若やかな*1アトモスフィア*2が漂うちょうど笑い飯の鳥人に出てくるような紳士*3がふたり、多摩を三倍に希釈した感*4が伺える街の、さらに人気がない索漠*5とした林地を、こんなこと*6を言いながら歩いていました。

 しばらくすると、工藤新一の自宅のような洋館*7がその姿を現しました。昼に最近復活したモスライスバーガー焼肉*8を食べただけだったふたりは、入店することにしました。

 ふたりは玄関に立ちました。洲本アルチザンスクエア*9を彷彿とさせる立派な建物には、

       RESTAURANT

    BLACK-TAILED GULL HOUSE*10

という札が出ていました。

「これはちょうどいい。こんな奥六郡*11にレストランだとさ」

「おどろおどろしい*12けど、大丈夫かな」

「とにかく何か食べられそうだ。入ってみよう」

 ふたりは戸を押して中へ入りました。そこはすぐ廊下*13になっていて、金色の戸の裏側には、

<当店は注文の多いレストランですからどうかそこはご承知ください>

という字が書いてありました。

「なかなかどうして、流行っているんだね」

「どうしよう、慈照寺の拝観料*14くらいぼったくられたら」

「大丈夫だよ。料金訊いて払えそうになかったら帰ればいいさ」

「黒服*15に囲まれたらどうしようもないじゃないか」

「そのときは是非もなし*16、あきらめよう」

 半ばハイテンションなふたりは、サザエさんのエンディングのような足取り*17で先に進んでいきました。すると、今度は甕覗色*18の戸が現れました。

「どうもおかしい、変なつくりの家だ」

「はやく料理にありつきたいものだね」

 戸を開けると、そこにはPixelMplusのフォント*19で、こう書かれていました。

<ここで髪をきちんとして、はきものの泥を落としてください>

「これはもっともだ。林地を3パーセク*20くらい歩いてきた僕らは確かに泥まみれだし、料理を食べる面構えじゃない」

「どうにも小うるさいレストランだな。松尾伴内*21みたいだ」

「きっとセレブ御用達なんだよ。失礼のないようにしないと」

そこでふたりは、髪を整え、オールデン*22の靴の泥を落としました。さらに進んでいくと、そこにはまた扉が。空腹感が絶頂のふたりは、何も考えずに扉をあけました。するとそこには、

<ここですべての着物をお脱ぎください>

という文字がありました。扉の横にはご丁寧にクッパ城の地下金庫*23を思わせるボックスが口を開いて待ち構えていました。

「どうしたことだろう」

「奇妙だね。僕らを裸にしてどうするつもりなんだろうな」

「サーフライダー*24に売るつもりなんじゃないか」

「縁起でもない。とにかく従おう。僕はもう干だるさ*25で倒れそうだ」

 すこし行くとまた扉があって、そばには壺がありました。

<壺のなかのクリームを塗ってください>

「なあ、これは少しおかしいんじゃないか。帰ろう」

「シャオチン野郎*26、急に怖気づくなよ。ここまできたら従うしかないだろ」

「何だと唐変木*27、こんな目にあってまだ気づかないのか。これは罠なんだよ」

「どういうことだ?」

「注文が多いっていうのは、流行っているなんて呑気な意味じゃない。客への注文が多いってことだ。なあ、そんなことをする意味はいったい何だい」

「じゃあ何か、お前はスターシップトゥルパーズ*28みたいなやつが出てきて、俺らを食うって言うのか」

「そうだ。ここは客に飯を出すレストランじゃない。客を飯にするレストランだ」

「弱者……?」

「僕らが天下り先だってか」

「それはJAXA*29

「とにかく逃げよう。このままじゃ僕らはクレーム・パティシエール*30にされてブリュレの材料だ」

 ふたりは急いで戻り、服を着て、奇妙なレストランをあとにしました。

「まったく、チキン野郎だな。おい、今度は銃を持って来よう。そうすれば怖くないだろ?」

「なあ」

「どうした」

「さっきから気になっていたんだが、お前さんの頭の上にある“それ”*31は、いったいどういう意味だい?」

「それ?」

 日が落ちた林地には、鳥が鳴く声すら響かない、静かな夜が訪れようとしていました。

*1:若々しいさま。「若やがす」という他動詞もある。

*2:雰囲気。こんな風にカタカナ語を使うと簡単に友達をなくすことができる。

*3:M-1グランプリ2009における笑い飯の漫才に登場する「鳥人」は身なりがタキシードで英国紳士のようだった。

*4:じただでさえど田舎の多摩地区を三倍に希釈したので、ロシアくらいの人口密度。

*5:ものさびしいさま。覚えたての言葉を使うのがクセな人にはぴったりの語彙。

*6:「グーグルマップの青いチンコみたいな表示がぜんぜん違うところにあるんだけど!」「いや、これそもそも住所あってる?」「ぐるなびにあったのコピペしたから間違いないでしょ」とかそんな感じ。

*7:工藤新一の自宅は、洋館のようなエクステリアで知られる。名探偵コナン2巻において、歩美ちゃん曰く「不気味な屋敷」。ちなみに2巻で工藤新一の自宅のことを「エ藤(えとう)」と読んでいることから、この時点で歩美ら少年探偵団は工藤新一のことを認識していなかったことが伺える。この点を指摘して「(工藤新一と少年探偵団の交流が描かれている)映画版と矛盾しているではないか」という批判をしている人を見受けることがあるが、この批判は見当違いである。というのも、2巻の時点ではまだ少年探偵団は毛利蘭と出会っていないのだ。(彼らが初対面するのは4巻である。歩美の「美人だね、コナン君のお姉さん!」という発言及び元太の「おまえのねーちゃんオッパイでけーな」という発言からも、彼らが初対面であることが証明されている。)つまり2巻における「エ藤(えとう)」発言は何ら不思議ではなく、時系列的には映画版との矛盾は生じない。名探偵コナンのひとつの楽しみ方として「登場人物同士がどこで出会ったか」を軸にして読み返す、という手法がある。ぜひ試してみてほしい。

*8:2016年2月9日より一部店舗で3年ぶりに復活。

*9:旧鐘紡洲本工場の赤レンガ建築群のリノベーションにより誕生した兵庫県洲本市の複合施設。

*10:ウミネコ。原文ではレストランの名前は「山猫軒」だった。

*11:律令制度の頃は岩手県あたりのことをこう呼んでいた。

*12:気味が悪い。

*13:英語ではcorridorという。銀座コリドー街のコリドー。ただしこのような場合の「廊下」に使用するのは不適切である。corridorには「door(ドア)」が「curr(走る)」という語源があり、要するにイメージとしては飲食店が立ち並ぶような通路、あるいはホテルの廊下のような感じである。ここではpassageくらいが訳語としてはちょうどいい。

*14:大人500円。特別公開は1000円。京都の寺はどこも拝観料が高く、いくつもまわっているとあっという間に財布が薄くなる。その点奈良は若干安め。寺にも寺の事情があるので、あまり文句は言えない。

*15:ぼったくりキャバクラでは頻出の黒服に身を包んだ「お会計担当」のお兄さん。

*16:織田信長の最期の言葉として知られる。「しかたがない」といった意味。

*17:クスリをやっていないとあんな歩き方はしない。

*18:甕にたまった水に映りこんだ青空のような色。

*19:8bitゲーム機のビットマップフォントのような雰囲気のフォント。商標利用可能。

*20:約3.3光年。誇張表現。

*21:うるさい。ビートたけしにため口をきいて怒られた過去がある。

*22:アメリカンシューズのブランド。馬の尻革を使用しているので、履き慣れるまでに時間がかかる。

*23:マリオ&ルイージRPG3で2つ目のスターワクチンが手に入る場所らしい。金庫で検索したら出てきた。

*24:かつて存在したゲイビデオメーカー。現在は「マップメイト」に引き継がれている。

*25:ひどく空腹なさま。

*26:完全にうろ覚えだけど、確か「小さいペニス」みたいな意味だった。

*27:物分かりの悪い人物を指して論う言葉。

*28:ラーメンズのコントでお馴染み。SFの大作で、気持ち悪い虫が出てくる。

*29:センター試験委員会と並ぶ「二大役人の天下り先」として有名。

*30:カスタードクリーム。フランス菓子の定番。

*31:本作の主人公であり、ウミネコ軒のオーナー。